2011年7月9日土曜日

【作品紹介】fine.


「fine. -ファイン-」 全4巻  
2006~2007年、ビッグコミックスピリッツに連載。

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現代アートの芸術家を目指す27歳・上杉の元に届いた一通のメール。

それは美大在学時に“巨大雪上地上絵”を制作した仲間からの

同窓会開催の知らせであった。


上杉はその同窓会で、昔の恋人・りおと再会する。

「まだ描いてたんだ、絵」―――。

りおの言葉に、上杉は返す言葉がなかった。

描けども一向に絵は売れず、たまに来る仕事は二束三文のカット描き…。

同窓会の帰り際に、上杉はりおから衝撃的な誘いを受ける。

「同居しようよ」

お金のない上杉の窮状を汲んでの言葉だったが、

その真意はーーー?


りおに未練を持っていた上杉は、悩みながらもその誘いにのることになる。

だが、かつて同じ巨大雪上地上絵のメンバーで、友達でしかなかったが

今は上杉と"都合の良い関係"になってしまっていた女"サイトウ"が、

二人の同居生活に絡んできてーーー?


上杉とりおとサイトウの三角関係を軸に

人生の分岐点でもがき、

あがく若者達のどん詰まり20代後半青春ストーリー!!



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作者より、連載を振り返って。
2011.7.11

とにかく取材取材、現実現実でした。


この連載の企画があがったときは、

軽いノリのラブコメにしようと思っていたんです。でも、

ネームを描き始めて詰めてゆくうちにどんどんシリアスになっていって

徹底的に「20代後半の痛い感じを突く作品」として、

針を振り切って描いた方が面白いのではないか、と。


主人公の年齢は27歳。ちょうどその時の自分も27歳でした。

まず学生時代の同級生達に徹底的に話を聞きました。

来る日も来る日も、友達を1〜2人呼び出しては、飲みに行く。

仕事のこと、夢、学生時代と今、恋愛、結婚、現実…

沢山の言葉をもらいました。

最終的には30人ほどから話を聞いたと思います。

他にも、銀座の画廊や、陶芸家の方にも話を聴きに行ったり、

フットサルの回では、某漫画家さんのチームに

まぜていただいて、実際にやったりもしました。

今となっては漫画を描くならそれくらいは当たり前と思いますが、

当時は初週刊連載ですし、刺激的な毎日でした。



連載が始まったらもう休むヒマもなく。

友達との会話を思い出し、自分の実体験ももちろん交えながら

深く深く、痛く痛く。

はっきり言って、とにかく自分が傷つきました。

だって、何者でもない主人公・上杉に浴びせられる言葉は、

まだ何者でもなかった自分に全て返ってくるのです。



現代の東京を舞台にしたので、

写真撮影も大変でした。

上杉とりおの住んでいたスナックは、

墨田区の曳舟周辺の設定。

ちょうどそのエリアに現代芸術家が集まっているという話を

聞いたことがあったので、そこにしました。

アシスタントが朝10時に来るのに、作画に必要な写真がないって時は、

朝5時に起きて、始発電車に乗って、

撮って帰ってくるなんてこともありましたし、

アシスタントにポーズをとってもらって

それを参考にして描いたりもしました。

一番過激な(?)取材で言えば、

作中のラストでヌードを描くシーンがありますが、

リアリティをもたせるために、実際にヌードモデルを家に呼んでみたりもしました。

道具をセッティングして、キャンバスにヌードを描きましたよ。

漫画と違って、もちろん何もなかったですけど。


ボロボロの精神状態で、

でも、半ば開き直ってハイになりながら、

毎日毎日白い原稿を真っ黒にしていました。


そして

気がついた頃には、終わっていました。

駆け抜けた、1年間。

客観的に振り返れるようになるまで時間が必要でした。


読み返すようなことはしないのですが、

今振り返ってみると、いつのまにか上杉というキャラクターを客観化できるように

なってしまっていた。

自分とは違う人物だけど、確実に自分の一部分であり、

作者ゆえに、掴みきれなかった彼の人格。

一緒にもんどりうって、20代後半を闘った仲間のようであり、

自分そのままだったり。


「いいオトナになんか死んだってなってやるものか」と

最後彼は叫びましたが、

自分はどうだろう、

上杉は今頃なにをやっているだろう、

と、時々考えます。




切っても切れない、決して消せない、青春の1本です。