2016年5月5日木曜日

日記 20160505 鯉のぼ




話題になっている重版出来!のドラマ、第4話をみました。
スピリッツ編集部がモデルらしい…とある漫画編集部が舞台のこのドラマ。
非常に面白かった…!

というのは、


俺はデビュー前に5年、連載後5年…計10年スピリッツ編集部にお世話になってきたからです。どこかで見覚えがあるような編集部や編集者たち…そして漫画家志望者たちに、かつての自分や、自分の知り合いたちの姿を重ねないわけがありません。

例えば医療ドラマがあったとしましょう。
想像してみてください。
実在の病院や医者をモデルに描かれたとして、自分がそこで働いていたり、その病院に入院していた患者だったとしたら、他人事には観れないはず。
ある意味で、当事者であり、もしかしたらネタにされている一人かもしれない。(聞いてみないとわかりませんけども)

第4話。
印象的だったのはヤスケンさんですね。
彼は現実的なキャラクターです。悪くみえるように演出されてますが。
連載経験のない新人にいきなり仕事をふるのはプロとしてどうなのかというのはありますが、色々キャリアを重ねる中でそういうスタンスになったのでしょう。
冒頭、ヒロインはオダギリジョーさんと一緒に、持ち込みを3人みますね。ここでは作品の力量もさることながら、性格や姿勢も見ているという場面ですが、俺はもう一人キャラが足りないと思う。(原作は読んでないので、ドラマに関してだけ言ってます)それは、最高に面白い漫画を描くけど、性格が超悪いとか礼儀や態度が超悪い新人。そういう人をあの編集部はどう扱うのか、観てみたかったなぁ。
新人の選び方には社風が出ると思います。その後の東江さんや中田さんに関してもスピリッツぽいなと思ったり。

漫画業界は、編集者個人の論理や気持ちで漫画家の人生を支えられるようにはできてません。与えることができるのはチャンスだけで、あとは作品が売れるかどうかは神のみぞ知る。売れても売れなくても全て漫画家が一人で全てを背負って生きていかなければいけません。
編集者も最初は新人であり、仕事をする中でその現実を知っていくものです。どんなに一緒に夢を見ても、どんなにその漫画家の才能を信じていても、自分の担当作が市場からNOと言われたら…つまり本が売れなかったら、その漫画家の人生を支えてやることはできない。若い編集者は若い新人漫画家と同じように深い現実を知りません。だから、純粋な自分の思い入れだけで「一緒に頑張ろう!」と言えます。デビュー以前の新人には、そういう後押しも必要でしょう。応援団のような。
長い議論をして、一緒に徹夜をすることもあるでしょう。そのうちにネームには、担当編集者のジャッジ、雑誌に合わせたチューニングが自然と入ってくる。漫画家個人の作品とは呼べない、共同制作的なものができあがります。自然と。ただ、その作品にもたらされる世間からの評価は、漫画家が一人が受け止めるものになります。売れても、売れなくても。褒められても、褒められなくても。うまくいけば勿論いいけど、うまくいかないことのほうが多いのが当たり前の世界。だって、毎年押し寄せてくる新人の中から連載デビューできるのは数百人に一人、ヒットが出せるのはさらにその中の一人。そのヒット以外は全て、「うまくいってない」のです。
編集者と漫画家のあいだに人情や友情があったとしても、数字が伴わなければ支えられなくなるのが自然です。
ラストシーン、作家をとられたことを恋に例えていましたが、付き合いはじめは人間的な付き合いを求めても、数字が出なければビジネスライクにお別れするしかない、当然の流れなのです。
編集者にとっては手持ちのカードがひとつ減っただけかもしれませんが、漫画家にとっては人生の弾丸をひとつ失うくらいの大きな挫折です。編集者は供給過剰な新人たちの中から次の恋人を探すでしょう。でも漫画家が漫画家を辞めるタイミングはこういう時だったりもするのです。かつてスピリッツで同時期に頑張っていた新人たち、デビューできずに漫画を諦めていった漫画家志望者たちを沢山沢山見てきました。だから、わかります。
ヤスケンはその責任の重さを知っているからこそ、ああいう仕事の仕方になったのだろうと思う。ヒロインもいずれそういう壁に今後あたって、どう対応し、乗り越えていくのだろうか?ヒロインがいずれ成熟した編集者になったとき、どういうキャラクターに変化するのだろうか。そこが描かれていくのかはわかりませんが、期待したいところ。

漫画編集部には、けっこう社風や編集部の流儀があります。
ヤスケンやヒロインは、もしも他社や他の編集部の所属だったら、正義や正解が変わると思う。
出版社はそれぞれの理念とスタイルをもった営利企業なので、価値基準は違うのが普通です。持ち込みのシーンによく現れてますね。編集部によっては、最初のハゲを即戦力として評価し、仕事や企画をふる編集部もあると思う。
どこの編集部も拾ってくれなかったという中田というキャラを拾ってくれたのはヒロインやバイブス編集部のいいところであり、言い方を変えると、おおらかな社風に見えますね。これはなかなか結果を出せない新人編集者を育成する余裕があるということ。それだけ会社に体力があるという言い方もできますし、会社の財布に余裕があるように思えます。それは新人漫画家に育成費を出すということではなく、ヒロインを遊ばせておくだけの余裕があるということ。けっこうどの編集部もカツカツなので、他社であればこういう新人を育てたくても育てられないということもありそうです。ヒロインはいい会社に入ったのでしょう。

ちなみに、この原作漫画を描いている作家さんや、担当編集者は共に、他社で仕事をされてきた方で、小学館やスピリッツ編集部の生え抜きの方ではないんですよね。だから、ここまで視点を引いて描写できるのかな…と、ちょっと裏読みしてしまいました。生え抜き作家や編集者だったら、また違った物語を紡ぐだろうなぁと思います。

幸福なケースがどこにあるのか。もう本当に作家や編集者それぞれです。若手の頃にはなかなか結果がでなくても、40を超えてからヒット作を描いちゃうみたいな作家だって沢山いますし、編集者だって様々な挫折を経て会社を辞めたり、他の雑誌に異動して好きな作家の担当を外れることもあります。一昔前には、8割は優秀だけど、2割は悪事を働くダメな社員がいるとか言われましたが、もう会社の甘い汁をのんきに吸ってられるような時代でもなくなってきてると思いますしね。
僕の知ってる漫画の現場は殺気立ってます。
ヒロインのやり方で作家がヒットを出してカタルシスが得られるのなら、それは本当に幸福ですが、ヤスケンの仕事の仕方も悪く思いたくない。ドラマでは悪くみえるように描かれてはいますけども、もしかしたらヤスケンも東江さんも読者もついでに雑誌も黒字になって全員がハッピーになることだってあるわけです。それも正解だと思います。

色々楽しめたドラマでした。今後も期待です。